2016.01.13

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「我々若い世代は政治に対してどのように向き合っていくべきか?」この問いの先にある答えを求めて、かつて砂川闘争の学生運動をリーダーとして指揮し、60年安保闘争を戦い抜いた後、中曽根元総理の懐刀となった小島弘氏(83)にインタビューを行いました。前編に引き続き、議論はより核心へと近づいていきます。かつてのユースデモクラシーのリーダーが今の若者に期待することとは。

(本インタビューは2015年9月18日に実施したものです。)

 

 

政治はなぜ劣化したのか?政党助成金が諸悪の根源?


 

仁木

今までのお話の中で、当時と今とでは若者の政治への向き合い方が違ったように感じました。その背景には何があるとお考えですか?

 

小島
生活が昔よりは安定していますしね。昔は大学進学なんてごく一部でしょう?それに10歳も違えば戦争にみんな行っていたからね。

 

もう一つは政治家の問題もあるかもね。今の政治は劣化して、わけのわからない政治家が大勢出てきているよね。一つの例を出すと、中選挙区時代の群馬三区は、福田赳夫と中曽根康弘と小渕恵三と三人の自民党議員と社会党の山口鶴男さんが猛烈な争いをして、自民党同士でも熾烈に戦っていたから、少なくとも福田と中曽根相手にケンカした小渕さんは相当しんどかったはずですよ。

 

でもね、今の小渕さんのお嬢さんなんかそうだけど、東京で生まれ、東京で学校に行き、東京で就職した人が、たまたま親父が死んだので地方へ行って地盤を引き継いだわけだから、政治の訓練がされていない。そういう2世、3世ばかりが政治家になっている。これは大変だと思うよね。当時は切磋琢磨して、色々な経験を踏んで、ひとかどの政治家になるのだから。生まれながらの政治家なんてのはいないですよ。中選挙区だと人の鍛え方が違いますよね。その意味では、小選挙区制が政治を駄目にしているんでしょうね。

 

それから、僕は口が悪いからよく言うんだけど、自民党も民主党も国から予算をもらって政治をやっている国有政党だと思うね。普通の八百屋のおじさんやおばさんからお金をちゃんと集めるのではなくて、天からドーンとお金をもらっていて、どうして働く人の気持ちがわかるの?わからないでしょ?そりゃお金の価値がわからないですよ。

 

仁木
政党助成金の締め切りまでに政党を作ろうとか、それを軸に政治が動いていますよね。

 

立石
そういえば、小島さんが事務局長をされた新自由クラブはカンパを集めて運営されていたということを聞いたことがあります。

 

小島
僕が最後に新自由クラブの事務局長になる前に、10年前の立党時に西武から4億円借りてるんですね。これは財務部長をやっていた有田一壽が日本クラウンの社長もやっていたので、日本クラウン経由で来たお金なんですね。それを解散する前に全部利子を付けて返しました。

 

その為には、代議士にお金を絶対に見せない。だって見せたら持っていかれちゃうので。とうとう最後に、きれいに返しちゃった後、当時幹事長だった山口敏夫が「あの金はどうなった?」と聞いてきたので、「きれいに全部返しました」と言ったところ、「おい!ほんとか!」と言われてしまった。小沢一郎みたいに持って帰りたかったのだろうけど。そういうわけで、代議士も全部だまくらかした。笑

 

僕の前の事務局長は、青年会議所の副会長をやっていて、この人は普通の企業の経営者だったので、「借りたものは金利を付けて返そうよ」と同意見だったんだ。

 

当時も立法調査費で代議士一人当たり毎月60万円がくるんですよ。それを全部積み立てて、同時に手形をどんどん切って、きれいに、幸いにして解散するまでに借金ゼロ。そんなことやっている政党はないでしょ。でも、借りたものを返すのは常識だよな。だから、僕は、河野洋平も田川誠一も山口敏夫にも了解を取らずにきれいに返しちゃった。

 

 

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マイルドヤンキーと政治


立石
政党や政治家側の変質がある一方で、若者側の意識にも差が生まれているように思います。

 


サブカル評論家の宇野常寛さんが「村上春樹は団塊の世代だから壁をぶち破れと言っているが、実際には壁はないのではないか」とおっしゃっていたけど、そういうことではないかな。

 

つまり、小島さんの時代も含めて80年代までは、どんどん豊かになっていくのに、自分の欲求が満たされない時代だった。今はどんどん貧しく、無気力になっていく時代だから、政治に関心が向かないのではないかな。

 

もっと言えば、今の若い人には宿命主義的な人間観があって、生まれた時からあの人は自分とは違うと考える節がある。実際、この国の若者は国連の調査で、社会変革が難しいと回答した率がもっとも高いんだよね。

 

仁木
当時は可能性を信じられた時代だったわけですね。最近よく言われる「マイルドヤンキー」にも同じ感覚があるのかもしれませんね。つまり、東京や海外に行く人間は、自分たちとは違う人間なんだと思ってしまうという。

 


しかも、そういう東京や海外に行く人間が成功しても、自分とはそもそも違う人間だと思っているから嫉妬心もおきない。今の若い人はどんどん熱が下がっている時代なので昔の政治とは違ってくるのは自然な流れなのかもしれないね。

 

小島
当時は進学率が低かったから、大学生はエリート意識をもっていたね。ノブレスオブリージュとして、国の為に自分たちがやるという熱意や心をもっていたんだよね。

 

世界でも悲惨な日本の若者の現状にこそチャンスが!


 


日本の若者に対する社会保障は本当にヒドいね。ある意味では最貧国だよ。自分は、80年代に経産省に入って知ったけど、日本人はキャッチアップが強いから、北欧をキャッチアップすれば良いと思うね。北欧は予算がGDPの半分もある。他方で、日本は100兆円の予算でGDP450兆円でしょ。今の予算を倍にすることはできるよ。少なくとも10兆円を若者支援にまわせば変わるでしょう。

 

それに、小島さんが「連帯」という言葉を出していたけど、日本人は先進国で国民の連帯感がもっともないみたい。デンマークでは金持ちが貧乏人を支援するのは当たり前の感覚なんだよね。だから、喜んでではないけど、増税に賛成もする。それは国民の連帯感が強いからなんだよね。

 

そういった事をとことん言っていく必要がある。もっと対象になりきって、皆さんは自分たちの同胞の為に狂気のような熱意でやりきったら、山が動くはずだ。田中清玄のように良い意味でクレイジーになるべきだ。

 

過去の日本の歴史でこんなに若者が搾取される時代はない。だから子供を産みたくても産めない。日本の男性の生涯未婚率2割を超えたが、これは江戸時代と同じレベルなんだよね。

 

仁木
政府支出を増やすべきかどうかは、様々な意見がありそうですが、田中清玄さんの生き方はとても魅力的だと思います。

 


それに、JRの変電所などに放火した犯人は、40代の無職だったでしょう?ああいう30代40代の契約社員には希望がなくて絶望に変わっていく10年に今後なっていくわけで。その意味で、なんとかしなければならないし、政治に出来る事はもっと沢山あると思うんだよね。

 

例えば、一人一人が男性も女性も年収400万とか職住近接で30分以内に会社にいけて、起業したければできるという社会をつくる。そうすれば子供も自然と増えるんじゃない?

 

しかも、企業が本当に少子化による人手不足に困り始めているので、若者が声を上げるチャンスだと思うよ。

 

立石
私は中野区で街づくりの活動に関わることが多いのですが、地元の商店街や町会は「青年部」なのに実態は50、60代が中心という有様で、20、30代が入ってこない状況に危機感を覚えています。

 

それでも少しずつ地域の活動に参加する若者が増えてきている実感はありまして、やり方次第なんじゃないかと思います。

実際に、10代から80代の幅広い年齢層の人たちが一緒に活動する場では、価値観が異なる世代が交わることで新しいコミュニケーションが生まれることもあります。

 

年長者の方の中にも若者世代や将来世代を心配している方は沢山おられるので、世代間格差の問題も、相互に対立することなくコミュニケーションを深めることで、年長者と若者が力を合わせて取り組んでいくことはできると思います。

 


退職して人脈の使い道のない老人をどんどん活用するべきだよ。その意味で、仁木さん達の役割は非常に大きく、老人と有為の若者をつなぐ良いフィルターになれると思う。

 

小島さんと5年やっているが、彼は全力を投じたいテーマがない。喧嘩に関しては上の人が強い。ここは若者の頭脳と体力、老人の金と人脈を組み合わせるべきだよ。

 

小島
そういう人は地域に多くいると思うし、僕も協力したいね。藤さんはシングルマザーを一生懸命支援しているので、僕は青年を支援したい。

 

若者へのメッセージ


 

仁木

最後に若者や若い政治家に向けてメッセージをいただけますでしょうか。

 


若い人は色んな事を考えて、知識もある。でも、本当にやらないといけないことから逃げていないかを自問自答する必要があると思う。本当にやらないといけない事を直視したら政治に向き合うしかないし、それは「社会の仕組みを考える事」に向き合うことを意味するんだよね。政治という言葉がわかりづらくしているけど、実際はそういうものだということをしっかりと考えてほしいね。

 

小島
これからの超高齢化社会を迎え、年金も含めて介護の事も考えなくてはいけない。年寄りはそのまま死ぬが、若い人は取り残されてしまう。「政治」という言葉は、自分たちの生活と関係ないとなるのでダメだよね。新しい言葉を生み出すところから始めると良いかもしれないね。

 

また、大山団地(孤独死ゼロを実現した立川の団地の自治会)のような、地方議員がいらなくなるような地域の自治運動を推進していくことが大事だと思います。例えば、自治会の実態調査や内部改革から始めてみてはいかがでしょうか。そういったことも含めて大いに期待していますし、喧嘩の仕方も含めて伝授したいです。

 

仁木・立石
ご期待に沿えるような行動を起こしていきます!貴重なお話をいただきありがとうございました!

 


 

 

小島弘
世界平和研究所参与。1932年生まれ。明治大学卒。1957年全学連第10回大会より全学連副委員長。60年安保闘争時は、全学連中央執行委員、書記局共闘部長を務める。その後、新自由クラブ事務局長を経て、現職。

 

藤和彦
世界平和研究所主任研究員。1960年生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向し、内調NO2の内閣情報分析官として、経済インテリジェンス分析に辣腕を振るう。2011年より現職。

 

公益財団法人世界平和研究所
1988年発足の公益財団法人。中曽根康弘元総理が会長を務め、安全保障を中心とする調査研究や、国際交流等を目的とする政策研究提言機関。

http://www.iips.org/